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第10章 番外編【櫻の系譜・弐～水面の月－高嶺桜－】　壱―お千世　　　

　もちろん、桜の君に毎日逢えるわけではないけれど、この数日間で二度も逢えた。あの男(ひと)と逢っている間のほんのひとときだけが、今のお千世には生きていると実感できる時間なのだ。あの熱い視線で見つめられているときの、満ち足りた一刻(ひととき)―。
　あの一瞬のために、自分は生きているのだとさえ思う。
　お千世は深い吐息を洩らす。今夜、桜の君はあの場所に来るだろうかと考えながら。