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第1章 第一部【白桜記】　其の一・山桜

　信重の死後、盛綱は亡君の遺言をよく守り、跡を継いだ長松改め信頼の養育にひたすら心血を注いだ。しかし、その努力も空しく、幼少から我がままで癇の強かった信頼のその性癖は、改まるどころか、長ずるにつれて益々その度合いを強めた。
　盛綱は我が生命も顧みることなく、しばしば信頼に諫言を試みた。大抵の者ならば、その場で無礼討ちにあうところのはずだが、流石に家老という重い立場にあり、また、亡き父が実の兄とも慕い頼りにしていた盛綱を無下に扱うことはできなかったようだ。