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末に吉をあげる
第1章 末に吉をあげる
多分、行ったことないんだ。
テレビも持ってなかったし、知識としてはあっても。
興味もなかったんだ。
家族がいなかったから。
「初……詣行きましょう。今年の幸せを先生と祈るんです。おみくじ買って、お参りして。なんか、普段は出てない出店で餅でも食べるんです」
教えたい、っていうのかな。
真っすぐに見つめてくる眼が見たことない場所を見せたいのかも。
人だかり。
煙の臭い。
石段を登る難儀。
御神木の放つ空気。
そういうのを、見せたいのかも。
「そのあと、ホテルでも良いので」
「どっちがメインなの」
「……ホテルでいいですよもう」
初日の出を見ようとも提案はなかったが、自然に二人とも朝日が上がる前に目を覚ましていた。
シャワーを済ませて、コーヒーを片手に談笑していたが、早めに出かけることにした。
車の取っ手に指がかじかむ。
先に乗り込んだ類沢が、内側から手を伸ばして開けてくれた。
ご機嫌な時にだけするんだ。
こういうの。
乗り込んだ俺を見下ろすように一瞥してからハンドルを握った。
「初親切」
「……え」
きょとんとした俺に、類沢が溜息を吐く。
「なんでもないよ」
「……あ! じゃあ、初ひらめきっす。俺」
「なにそれ」
言葉はそっけないが、更に上機嫌になったように見えた。
ソファにもたれかかっても、背筋を伸ばしたくなってしまう。
だって、初デートってことだろ。
これ。
浮足立つよな、俺も。
正月に二人でどこかにとか。
早速国道に入った途端、渋滞の気配を察して類沢が明らかに怪訝そうに目を細める。
信号早く青になれ。
出来れば二つ先も青になって進め。
「……そういえば、そこのラーメン前行ったの美味しかったですよね」
「場繋ぎトークに気を遣わなくてもいいよ」
すぐに見破るのもいつも通りではあるんだけど。
窓を差した俺の人差し指が動かないくらい空気固まらせないでほしい。
「瑞希はこの辺来るの?」
「たまに。あそこのゲーセンに金原とかアカと行ってましたけど。最近だと大学の飲み会で居酒屋来るとかですね」
右折レーンが全然進まず、ウインカーの音が響く。
「飲み潰れたりしないの」
「二回くらい、眠りましたけど。帰るまでには復活って感じで」
ああ、なんだか。
いいなあこういう、旅先への他愛もない会話って。