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末に吉をあげる
第1章 末に吉をあげる
県内ではベスト十に入ると思われる神社。
調べたのは昨日の夜寝る前に俺が。
駐車場に車を止めて、冷気の中に包まれる。
白い息を吐きながら、鳥居が見えるほうに歩き始める。
類沢は物珍しそうに参拝客の行列を観察していた。
「……よく来るよね」
寒そうに体を寄せ合って、家族やカップル。
ツアー客らしい団体も見かける。
屋台が五つほど並び、甘酒から焼き鳥を売っている。
「雅さん、祭りとかも来ないんですか」
「一人で行くのはアブノーマルでしょ。今年は瑞希と花火大会行ったけど」
日本三大花火の二つを回った。
類沢の運転で。
ピークを過ぎてからすぐに帰ろうと判断したのは、随分手慣れているように思われたが。
帰りながら窓から見るのも楽しかったな。
大勢の最後尾に向かっていた俺の腕が引き留められる。
振り向くと、類沢が反対側を指さしていた。
石畳が途切れた先に、寂れた祠が見えた。
しかし、それはどう見ても田舎の道の傍らにある由緒も記されていない社のような。
「あっちの方が人少ないよ」
「先生、今日は俺のセレクトでお願いします」
「神様に優劣もないよ」
格好いいけれども。
真理かもしれないけれども。
俺はとりあえずそこを参った後に神社に行くことにして、足を向けた。
近くに行くと、賽銭箱の周りに花と餅が添えられている。
地域の人だろうか。
ロングコートのポケットに手を入れて、類沢は小銭を俺に渡した。
「いいですよ、俺」
「こういうのって、自分のお金じゃないと福がなかったりする?」
「それはないと思いますけど」
三百円を受け取り、一緒に投げ入れる。
作法は熟知しているようで、見惚れるような優雅な動きで礼をする。
空気を震わせるように手を叩き、目を瞑った。
真剣な表情で。
何を祈るんだろう。
あまり見ても失礼なので、すぐに俺も続く。
十数秒の静かな時が流れた。
清廉な気が流れているのを、俺でも感じた。
砂利をする音がして目を開けると、類沢が鳥居の方へと手招いた。
優しい微笑みを浮かべて。
「初めて本気で願い事をしたよ」
「何をしたか聞いてもいいですか? 俺は今日無事に帰れるようにってのと、先生の健康です」
「外で先生はやめてくれない?」
「雅さんの」