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末に吉をあげる
第1章 末に吉をあげる
結局何を願ったかは聞けなかったが、またも大勢が並んでいる列へと戻る。
コートとマフラーを身に付けているお蔭で風はそこまでキツくないが、足元を擦り合わせる。
今日は前髪を片側に垂らして高めに束ねている類沢は、憂いを湛えて眼を伏せるだけで周りの女子の注目を集めていた。
本人は気づいているのだろうか。
風で靡いた髪が光に透けて紫の光沢が煌めく。
「寒かったら何か買う?」
「先……雅さんこそ、俺珈琲とか買ってきますよ。ホットの」
「自販機って駐車場だったよね。遠いからいいよ。大人しく並んでいよう」
待ち時間は大体三十分くらいだろうか。
ガヤガヤと声が飛び交う列の中で、俺はどう見られてるんだろうと考えた。
年の離れた友人。
兄弟ではないだろう、背的に。
叔父さんと甥。
教師と生徒ってなんなんだろう。
今更ながら考えてしまう。
「こういう場だとさ、どういう風に見られてるんだろうとか考えるよね」
「読心術使わないでください」
「親子」
「怖い怖い」
フフっと笑う類沢を見てると、ついつい顔が緩んでしまう。
二人にしか通じない会話で笑うって、外だと余計に嬉しくなる。
俺どんだけ舞い上がってんだよ。
少し話しては黙って景色を楽しんで、前が進んだら二三歩進んでまた話し……
狛犬まで来たときには、類沢は珍しそうにまじまじと眺めていた。
「意外と大きいですよね」
「向かい合っているんじゃないんだね」
「たまに似てる人いたりしません? ああいうガッて口開いてたり、ほんのり笑ってたり。左とか波賀先生……ふっ、せんせ、笑った今絶対……ふふはっ」
「いや……波賀先生はズルくない? そっくりだよあれ」
ナミナミ先生。
国語の授業は学年でも人気だった。
篠田の数学も人気だったのだが。
類沢とは仲が良かったのだろうか。
あまり篠田や雛谷以外の教師と話す姿と言うのは描けない。
たとえば女性教諭。
あくまで社交辞令程度なのか、女子生徒相手のように少し期待を持たせるのか。
ああ、ダメだ。
そういうこと疑ってくると不安になる。
また俺みたいに気に入る生徒が現れたら。
確証も約束もない。
前が進み、空間が空いても踏み出せない。
「瑞希?」