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末に吉をあげる
第1章 末に吉をあげる
類沢が振り返って待ってる。
迷惑かけたくないから歩み出して、隣に立つ。
「どうした」
「雅さん。俺、今年も一緒にいたいです」
声の張りから真剣な言葉だと感じ取ったのだろう。
茶化さず、黙って頷いた。
指先が触れたかと思うと、手を握られた。
コートに隠すように。
「そのつもり」
「……でも不安で。なんか、俺、もっとちゃんとしなきゃなのに、ボーッとしてて。いつの間にか先生いなくなっ」
手の力が強くなって口を閉じる。
熱い。
手のひらから感情という熱が流れ込んできているみたいだ。
「おみくじ、引こうか」
引いたことないくせに、嘘みたいに穏やかにそう囁いた。
本堂でお参りを済ませたあとに、木箱のおみくじを前にする。
随分長く手を合わせていた類沢が願ったことが気になるが、とりあえず今は五十円を投入して紙を引く。
嫌だな。
大吉以外は。
「……末吉だ」
「俺、凶……」
カミサマ、意地が悪くいらっしゃる。
広げた紙を互いに黙読する。
伝わってくる進言や警告を胸に刻み付けるように何度も。
でも、凶て。
なんだよそれ。
今年の俺を否定するみたいじゃん。
恋愛、先は危ういって。
そのまま心情を読んだだけだ。
どんどん落ち込んでいく俺の肩を類沢が叩く。
「神酒があるから、飲もうか」
そう言って俺の背中に手を回す。
確かに、ひっそりと堂の傍らに大きなとっくりと、美しいほど白い器が用意されていた。
注ぎ合ってから気づく。
「先生、車……」
「一口なら神様も許すんじゃない?」
警察は許さないかもですけど。
悪戯っぽく眉を上げた類沢に何も言えず、一気に飲み干した。
甘味の強い、刺激が喉を焼いた。
舌根が鈍くしびれる。
安いコースの酒では味わえない風味。
「美味しいですね」
「神様と乾杯したわけだ。凄い酒だよ」
そうやって純粋に輝かれると困る。
類沢は器を置いて、また俺の手を握った。
人だかりから離れて、ドラム缶に焚き火をしている男性の方へ近づく。
灰が舞っている。
ひらひらと。
炎の上で空間が歪む。
森がぐにゃりと。
瞼にまず熱が這い、俺は瞬きを繰り返した。
類沢はそこを過ぎて、展望出来る手摺の前で立ち止まる。
「瑞希。末吉の意味って知ってる?」
「末吉、ですか。よくは知らないですけど、吉よりは低い的な」