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第1章 蟲に溺れる
(なぜ?あの蟲のせい?私、まだ足りないのかしら)

じっくり話をしながら蟲の情報を探り、手を触れさせずに帰らせるつもりだった。私は平静を装って紅茶を口に運ぼうとして、止めた。男が何か薬を盛ったことを考えた。男は目敏くそれを見抜くと、その本性を顕にしだした。

「俺は薬を盛ったりしないよ!食いもんに何かするのは、俺の好みじゃない。」

「私、何もいっていないわ。」

「でもあんた、感じてんだろう?そして俺のせいかと疑ってる。だってわかるよ、どんどんと匂いが強くなってる。今朝も嗅いだ…女臭い感じ。」

私は少しゾクッとしながらそれを聞いていた。人に自分の母乳を嗅がれている。子を宿した自然な作用ではなく、蟲によって歪められた作用。恐らくその放蕩が気取られていることに。

「あいつのこと思い出してるのか?」

「さあ、でも昨日は素敵な夜だったわ。」

「蟲を知ってるってだけで狡いよ。」

しばし二人は見つめ合う。
どうしようもないうずきが体に溢れている。
若い男を早々に返して、自慰をして鎮めてしまいたい。やり方を知っているなら鎮めてほしい。いや、もういっそ抱かせてみたい、沸き立たせてほしい。何せ、今の私には自分の身体の仕組みが、いや限界が全くわからないのだ。

(試してみたい、けど)

私は、男の眼をじっと見つめながら篭に入った小さなメレンゲを、焦れるほどゆっくりと唇に運んだ。

「─…。」

ゆっくりとした所作は女の動きの美しさ、その媚態を際立たせた。男が大きく唾を飲み込み、魅せられたのがわかる。
女は艶やかに微笑みながらじわりとメレンゲを噛み締め、唇を拭う。

「これ、とっても美味しいのね。あなたも、どうぞ。」

私は男にいくつかメレンゲを差し出した。男は我に帰るとばつが悪そうに私からメレンゲを受け取り、まとめて口に放り込んだ。

「…悪くない。」

「ええ、悪くないわ。」

私は目の前の若い男の、若さゆえの退きの良さに好感を抱いた。思った以上に慎重な男だ。しかし男も女もベッドでは豹変する。人は全くわからない。
私は男のカップを取り紅茶を注ぐが、身体の熱は確実に私を追い立てている。崩れていく蝋燭のように日常的な所作を綻ばせ、気だるくさせる。
ポットを持つ指先が微かに震え、弾ける水面が音を立てる。その指先をギョロリと睨めあげながら、男が口を開いた。
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