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第1章 蟲に溺れる
「…あの男に蟲を使われたんだろう?こんな風になる方法を俺は三つばかり知ってるけど、匂いも熱も、蟲しかこんなにならない。」

「…匂いと熱?」

「匂いは、あんただってわかるはずだ。熱は、蟲が男を呼ぶ証。」

私は自然と腕で胸を隠してしまった。やはり、若い男は気づいていたか。

「男を呼んで蟲に何の得があるのかしら。」

「それは試してからのお楽しみなんだろう?本当なら、俺が教えてやりたいけどね。」

男は妖しく私の眼を見つめながら、ギシッと椅子の背もたれに身体を預け、ポケットから取り出したどこかの鍵をもてあそび始めた。

「私、まだあれを身体には入れていないの。」

自然と口が開く。男は視線だけをこちらに向け、黙って続きを促す。

「正直、何が起こるか想像もつかないんだもの。」

男は手元の鍵をまた見やり、少し考え込んでいた。

「あの虫はあんたの身体にそこまで悪さはしないよ。生理が来たら全部出てきちまうから。昨日の男は珍しいもの好きだが女に危険はしない。だからオヤジ…俺の雇い主も招待状を送った。」

あっさりと若い男は種をあかしながら、鍵のツメのギザギザした部分をなぞる。

「あの虫は雌雄同体で、どっちもが卵を産むんだけどさ。卵を産み終わって出てくるときがすごいんだ。あんた、しばらく大変だよ。布団から出られないかもな。」

「まあ、そう…。」

気の抜けた声が出たな、と思った。

「…、」

若い男はぼうっと私の返答を聞くと、
テーブルの上に鍵を置きふと思いたったように私の頬へ口づけをした。
羽毛のように優しくて、唇は思っていたより熱く瑞々しかった。
そして、私も思っていたより我慢の限界だったらしい。

若い男が、私の頬の横に留まりながら首筋を見つめていたので、そっと首を傾げて髪を払った。今度は耳と顎の下あたり、首筋の付け根に同じような口づけ。男は私の首筋に顔を埋めて、具合を確かめるように唇と舌とを這わせていた。
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