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匣
第4章 痴人の罠
「…ああ、起きていたのか。」
男は、見たことのある男だった。確か父の部下で、飲み会の帰りに父を送ってきたことがあったはずだ。
背の高い、全体的に伸びのある体の作りをした男だった。細身で骨張っているが、秘めるように筋肉がついている。
(すみま、せん、)
そう言ったつもりが、思うように声が出ない。
どんどん身体が心地よく布団に沈みこんでいく。
まるで夢の中にいるようだ。
「いいんだ、動けないのも無理はない。疲れていたんだろう。ゆっくり休みなさい。」
男は俺の枕元にもう一つ椅子を置いて、俺を見下ろすように腰かける。
前傾した男の顔には深く影が落ちていた。
彫りの深い男の眼窩にはしっとりと闇が溜まって、そのなかに光る瞳の湿り気を怪しく飾り立てていた。
─骸骨だ、やはり死神─
「僕は君のお父上にお世話になった御木本というものだ。お父上から受けたご恩に報いたい。何かあったら何でも言って欲しいんだ。父上がやめてしまってから、とうとう僕もあの会社を辞める決心がついた。時間は自由だ、いつでも構わない。気軽に頼ってくれ。」
男は、見たことのある男だった。確か父の部下で、飲み会の帰りに父を送ってきたことがあったはずだ。
背の高い、全体的に伸びのある体の作りをした男だった。細身で骨張っているが、秘めるように筋肉がついている。
(すみま、せん、)
そう言ったつもりが、思うように声が出ない。
どんどん身体が心地よく布団に沈みこんでいく。
まるで夢の中にいるようだ。
「いいんだ、動けないのも無理はない。疲れていたんだろう。ゆっくり休みなさい。」
男は俺の枕元にもう一つ椅子を置いて、俺を見下ろすように腰かける。
前傾した男の顔には深く影が落ちていた。
彫りの深い男の眼窩にはしっとりと闇が溜まって、そのなかに光る瞳の湿り気を怪しく飾り立てていた。
─骸骨だ、やはり死神─
「僕は君のお父上にお世話になった御木本というものだ。お父上から受けたご恩に報いたい。何かあったら何でも言って欲しいんだ。父上がやめてしまってから、とうとう僕もあの会社を辞める決心がついた。時間は自由だ、いつでも構わない。気軽に頼ってくれ。」