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第4章 痴人の罠
男の声が、水の中から聞いた風のように鈍く聞こえる。これは一体なんだ?
思考が、ボヤける。身体が鈍い、心地よい。

もう眼は開けていられなかった。
ただ御木本と名乗る男の声を夢心地に聞くばかりだった。

「──寝たのか?」

冷たい指先が額を撫でる。じんわり汗の滲んだ額が敏感にその気配を感じる。指先は、顔の産毛をなぞるように顔の表面を滑っていく。
高熱にうなされたとき見る夢のように感覚的な、しかし醒めた夢想のように敏感に、男の触れた部位がブワブワと膨れて体を侵すようだ。

「死んだ父親の寝ていた布団で、身体が動かなくなる気分はどうだ。」

男の指が唇で止まり、男の身体が動いた音がした。
指が下の前歯にかかり、ぐっとこじ開けられる。
その狭い隙間へぬるい舌先が滑り込んできた。
口のなかをネロネロと隈無く舐めとっていく。
ピチャッという湿った音と男の息遣いが間近に聞こえる。口元がジンジンして、ドクンと一度男根に血が巡る。身体が無邪気に反応をしている。
ふわふわと、なされるがままに感覚を享受する。
まるで自分の身体が水を得た種子のように、本能的な反応を示していることに恐れを感じた。
顔をどうにか動かそうとしたが眉がひきつっただけで、手も指も微かに震えるだけだ。

ふと、男が顔をあげたのがわかるのは、俺の口回りが二人の唾液でベトベトだからだろう。俺の体を跨いで男がベッドに乗り上がった。

「死んだ父親の寝ていた布団で親父を陥れた男に抱かれるのは、昂るだろう。」

あぁ、ああ、こいつなのか。
やめろさわるな。おれにさわるな。

抗い戸惑う俺の指先を男・御木本は手に取ると、指から何からを丁寧にしゃぶった。
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