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眩惑のディナーショー
第16章 花魁道中

──────



「菖蒲──…御客様がお見えになるから早く仕度し…」

「お多江さん。菖蒲姉さんはもうとっくに床入りしたよ」

「……おや、そうかい……それはそれは……って、なんだか、九重姉さんがアサドの旦那に水あげされてから、あの子も急にしっかりしちまったね…」

お多江は拍子抜けした表情を見せて肩を竦めた。

「あたしの仕事が減っちゃった気がしちまうよ」

お多江は小さく愚痴を溢すとチロッと舌を出して笑いながら帳場に向かった。

売れっ子の九重が異国の主に水あげされた後──

ここでは若手の菖蒲が今は吉原一、売れっ子の花魁と名を馳せている。

菖蒲は床で今日も待つ──

いつか自分の眼鏡に敵う男を。
あの日のように
琥珀の肌に
漆黒の瞳──

緩く微笑む口端から零れる魅惑な責め句。


「……待ったか菖蒲…」

「……っ…」

襖がすーっと音を立て、遅れて部屋に着いた上客は笑みを浮かべる。

菖蒲も今日、とうとう水あげの日を迎える。


異国から十九人目の妻を迎えにきた旦那は、杏酒のボトルを見せびらかせるようにして笑っていた。



〜花魁道中〜完

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