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一度きり
第1章  
あれは、妻以外の女性の中に出した最初で最後の一度きりの行為でした。
そして、妻の中に出したのは……いや、妻との営みも、百合さんと初めて逢った夜が最後でした。

あれから20年が経ちました。
今私は、彼女の歳を遥かに越えてしまいました。
あのときの子供が“桜”です。
もちろん名前は私が付けました。
曲がりなりにも、私を受け入れてくれた彼女への気持ちからです。
妻から疎まれた私は、娘だけを生き甲斐に生きてきました。
そして、手塩にかけて育てました。
その甲斐あって桜は美しく、素直に育ちました。
私の宝です。

「ただいま!」
桜が帰ってきました。
私は、桜の振袖姿をもう一度見ようと玄関に向かいました。
玄関にはもう一人、振袖姿の女の子がいました。
彼女が軽くお辞儀をしました。
「大学の友だちの椿さん」
桜が紹介しました。
「こんにちは、初めまして、菖蒲椿と言います」
「すごいでしょ? 彼女も私と同じお花の名前で、それに名字も……」
私の目は彼女の顔に釘付けになりました。
「……偶然……ゼミで一緒になって……私と同い年で……おうちがお蕎麦屋さん……おうちも近いのよ……」
桜の声がどこか遠くから聞こえて来るようでした。



完。
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