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マスター・ナオキの怪店日記
第2章 夫婦でBARへ
真夜中の二時じゃあ電話もできない。言葉のやり取りではなく声を聞きたい。そんなふうに腐れ縁の志穂に対して想ったのは、今宵の三島さんたちとの会話のせいだ。
川村志穂とは、以前尚樹が働いていたレストランバーで知り合った。
店の近くで小さな不動産会社を経営している常連さんだと店長に紹介された。その美貌もさることながら、自信に満ち溢れている力強さに魅かれた。
淑やかだったり穏やかだったり、そういう女よりも強気なオンナを落とすのが尚樹のいわば趣味のようなものだった。簡単に落ちない女の気を抜いた瞬間が、尚樹にとって何とも言えない快感だった。
互いに縛ることなくつかず離れずの距離感を楽しみながら、付き合っていると言っていい関係を続けてここまで来たのだが、気づけば二人とも四十半ばと微妙な、特に女にとっては微妙な年齢。
そろそろけじめをつけた方がいいのかなぁと、志穂の、真意を探るようなつぶやきが増えたことは尚樹も分かっている。
さっきの、三島さんの言葉が頭の中に甦る。そろそろ身を固めたら。
あの言葉がずしんと響く。さらに尚樹の心に残っているのは、いなくなってからありがたみがわかっても遅いんだよというあの言葉。
距離ができての別れと違って死別ではもう二度と会う事も話すこともできない。
「そういう事考える歳になったんだなぁ」
声に出して呟きながらあえてメールで、たまには泊まりに来いよとメッセージを送った。