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マスター・ナオキの怪店日記
第2章 夫婦でBARへ
三島さんが奥さんを亡くされたのが二年ほど前。
二週間に一度は顔を出してくれていた三島さんが三カ月近く店に来なかった。
久しぶりに扉を開けた彼の顔には憔悴と、そして家に帰ってきた時のようなホッとした表情を見せたことに、尚樹はなにかあったのではないかと予感した。
尚樹の感はあたった。
カウンターに座りいつもは飲まないバーボンを一口飲んでから、妻が亡くなってね、と平坦な声で話し出した。
患っていた病が悪化した。だけど最後は眠るような穏やかな顔で旅立っていった。
そう語った三島さんに、尚樹は静かに献杯をささげた。
あの時、60半ばの同い年の妻をもっといたわってやればよかったと、半ば吹っ切り半ば未練を残しながら無理やりの笑みを浮かべていた三島さんの姿は今でもよく覚えている。
その時の姿を見ていない毎度さんでも、人づてに聞いていた三島さんの事を想像したのか、急にしょぼんと肩を丸めた。
「そうだなぁ。目の前にいるからあれこれ言えるんだもんなぁ。気味悪がられても女房孝行しておかないとな」
うんうんと肯きながら三島さんが、今度は尚樹に顔を向け、
「どうです?マスターもそろそろ身を固めたら」と唐突に言った。
「なんで俺なんですか?」
急なフリになぜか慌てる尚樹をからかうように、常連オヤジたちが笑い声を響かせた。