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マスター・ナオキの怪店日記
第3章 新天地を求めて
近くのタワーマンションに住むあの夫婦が二度目に店を訪れたのは、初めての日から十日ほど経った頃だったろうか。あまり日があいていない事もあって、入って来てすぐに気が付いた。
「いらっしゃいませ。さあ、どうぞ」
カウンターを手で示すと、夫婦は嬉しそうにスツールに座った。
「こんばんは。こうしてカウンターを勧めてくださるなんて、なんだか常連になってみたいで嬉しいです」
夫の方は笑みで顔をくしゃくしゃにし、妻の方は座り慣れているぞとばかりにスムーズな動作でスツールに腰かけた。
「こんなにも早くうちの店を気に入っていただけて、私も嬉しいですよ」
まずはビールをとすぐさま注文した夫婦は、グラスが置かれるとすぐにカチンと合わせてから喉を潤した。
「このお店はすごく心が落ち着くんです。空気が澄んでいるっていうか」
半分ほどビールを飲み干した夫はグラスを置きながら、店の隅々まで見渡して、それからゆっくりと尚樹のほうに顔を向けた。