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マスター・ナオキの怪店日記
第2章 夫婦でBARへ

 初めてなんですけどいいですか?とご丁寧に断りを入れてドアから顔をのぞかせたのは、50代後半から60ちょっと、といった感じの男性だった。
「もちろんです。さあどうぞ」
 カウンターの中をドアに一番近いところまでさっと移動した尚樹の人懐こそうな微笑みに安心したのか、男性は目元に皺をたたえながら二度三度と頭をさげた。それからドアの外を振り返りこれまた二度三度肯くと、後ろから今度は男性と同じ年頃の女性も大きくお辞儀をしながら入ってきた。どうやら夫婦らしい。
「さあどうぞこちらへ。テーブル席もありますけど、どちらでもお好きな席へ」
 カウンター席にもちらりと尚樹が視線を送ると、男女はカウンター席を手で指して、それからスツールに座った。その座り方がぎこちない。スツールに慣れていないようで、体制を整えるのにほんの少し苦労しているように見えた。だがうまく座れた後に二人は顔を見合わせ、満足そうに口元を緩めていた。


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