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マスター・ナオキの怪店日記
第7章 長澤夫妻の告白
「あの、マスター」
声の主の目は、まっすぐで、曇りが無くて、一途な思いにあふれていて、尚樹の戸惑いがゆっくりと平たくなっていくような、真面目な眼差しだった。
「どうか私たちに協力してください。いえ、彼らを救ってあげてください。残していった未練を静める手助けをしてあげてください。お願いします」
信彦がカウンターに額が付くほど頭を下げる。隣の照美もすかさず夫の真似をする。
その姿を見つめる尚樹の心から、次第に困惑や怯えが薄れていく。自分でも不思議なほどだった。そしてもっと不思議だったのは、
「私にできるんですか?」という言葉がすんなりと口をついて出た事だった。
「一杯の酒を差し出して、グラスを揺らしながら話す彼らの話を、真面目に聞いてあげればいいんですか?それで彼らは穏やかな眠りにつけるんですか?」
「はい、その通りです。どうかよろしくお願いします」
二人は立ちあがって腰を折り曲げ頭を下げ、「ではこれで失礼します」
そう言って素早く話を切り上げ、カウンターの上に5千円札を置いた。
「もう帰っちゃうんですか?店はこれからですよ、これからゆっくりと・・」
「いえ、今日はこの話をしに来ただけですから。開店前の忙しい時間に申し訳なかったです」
照美の笑顔がどことなく寂しそうなのが気になった。その照美の背にそっと手を当てドアへと誘う信彦に向かって、お釣りを、と尚樹が声をかける。だが振り返った二人は静かに微笑んだだけで、そのままドアを押し開けて出て行ってしまった。
店の中の空気が、急に生ぬるく感じる。さっきまでの張りつめた雰囲気から解かれたからかもしれないが。
ふいにスマホが鳴る。世話になっている酒問屋からの電話だ。
その名前を確認しながら何気なく目に入った時刻。
「え!」
思わす声を上げる。あんなに話し込んだのに、まだ30分しか経っていなかった。
声の主の目は、まっすぐで、曇りが無くて、一途な思いにあふれていて、尚樹の戸惑いがゆっくりと平たくなっていくような、真面目な眼差しだった。
「どうか私たちに協力してください。いえ、彼らを救ってあげてください。残していった未練を静める手助けをしてあげてください。お願いします」
信彦がカウンターに額が付くほど頭を下げる。隣の照美もすかさず夫の真似をする。
その姿を見つめる尚樹の心から、次第に困惑や怯えが薄れていく。自分でも不思議なほどだった。そしてもっと不思議だったのは、
「私にできるんですか?」という言葉がすんなりと口をついて出た事だった。
「一杯の酒を差し出して、グラスを揺らしながら話す彼らの話を、真面目に聞いてあげればいいんですか?それで彼らは穏やかな眠りにつけるんですか?」
「はい、その通りです。どうかよろしくお願いします」
二人は立ちあがって腰を折り曲げ頭を下げ、「ではこれで失礼します」
そう言って素早く話を切り上げ、カウンターの上に5千円札を置いた。
「もう帰っちゃうんですか?店はこれからですよ、これからゆっくりと・・」
「いえ、今日はこの話をしに来ただけですから。開店前の忙しい時間に申し訳なかったです」
照美の笑顔がどことなく寂しそうなのが気になった。その照美の背にそっと手を当てドアへと誘う信彦に向かって、お釣りを、と尚樹が声をかける。だが振り返った二人は静かに微笑んだだけで、そのままドアを押し開けて出て行ってしまった。
店の中の空気が、急に生ぬるく感じる。さっきまでの張りつめた雰囲気から解かれたからかもしれないが。
ふいにスマホが鳴る。世話になっている酒問屋からの電話だ。
その名前を確認しながら何気なく目に入った時刻。
「え!」
思わす声を上げる。あんなに話し込んだのに、まだ30分しか経っていなかった。