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マスター・ナオキの怪店日記
第10章 3人目の幽霊様
「しかし小さいバーというのは落ち着きがあっていいね」
 急に話題が変わって、男は店内を再びぐるりと見まわした。
「演奏はライブハウスだけじゃなく、生演奏が楽しめるバーでもやっていたんだ。演奏が無い時は大勢の客たちのにぎやかさで、店の中は圧倒されていた。静かに酒を楽しむというよりは、ワイワイと楽しく仲間と過ごす時間に酒が添えられていると言えばいいだろうか」
「そうですよね、たしかに、ステージのあるバーだとかなり広いですよね。たしか隣町に有名な店がありますね。窓からのぞいた事しかないですけど、バーテンだって一人じゃ足りないだろうし。そこへ行くとうちみたいな小さな店は俺一人で十分だし、お客さんも一人で楽しんだりできるし」
「そう。自分が働くのは広い店だから、こういうこじんまりとした店のカウンターで飲むのが息抜きみたいなもんなんだ」
 カウンターを手でなぞり、木の感触を確かめてから、指でリズムを刻む。今にもウッドベースの低音が店の中に響いてきそうな、リズミカルな音。
 その音をプッツリとやめて、グラスのバーボンを飲み干す男。さてそろそろ帰るか、とつぶやいてからスツールから立ち上がった。
「マスター、ありがとう」
 礼を言ってから男は、掛けてあったコートと帽子を手に取り、身支度を整える。もう一度ドアの前で帽子をちょこっと上げて挨拶をすると、ドアを開けることなくすり抜けるようにして消えていった。
 尚樹もその現象に驚くことなく、ありがとうございましたとドアに向かって頭を下げた。



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