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マスター・ナオキの怪店日記
第11章 4人目の幽霊様
「カクテルってこんなに美味しかったのね。もっと早くこの味を知ってたらよかったわ」
女は満たされた笑みを浮かべてからカクテルを飲み干す。カラになったカクテルグラスをまた宙に掲げてからコースターの上に戻す。そしてすぐに立ち上がった。
「マスターナオキさん、素敵なカクテルをありがとう。じゃあそろそろ帰るわね」
尚樹は素早くカウンターから出て、ドアまで女をエスコートする。ゆっくりとドアを押し開け、どうぞと女に先を譲った。
外に出ると、春とはいえ夜はまだ空気がひんやりする。その冷気を含んだ風が尚樹の頬をかすめた。
女の背中に目をやり、ニット一枚では寒いのではないかと、声をかけた。
すると女は、「もう寒さは感じてないから大丈夫よ」と笑って見せた。
「ナオキさん、ありがとう。常連になれなくて本当に残念。でも・・ここに来られてよかった。じゃあ、逝くわね」
ふわりと髪を揺らし、手を振ってから尚樹に背を向ける女。その後ろ姿は霧の中に消えていくかのように、薄くなって、次第に透明になって、消えた。
店の中に戻って、彼女の座っていたスツールに手のひらを当てる。当然ぬくもりなど残っていない。
それと、グラスの中にも水滴はない。もちろん、酒は減っていない。だけど、一つだけ、無くなっているものがあった。
「あ・・花が無い。蘭の花が・・」
花だけは、彼女と共に消えていた。
女は満たされた笑みを浮かべてからカクテルを飲み干す。カラになったカクテルグラスをまた宙に掲げてからコースターの上に戻す。そしてすぐに立ち上がった。
「マスターナオキさん、素敵なカクテルをありがとう。じゃあそろそろ帰るわね」
尚樹は素早くカウンターから出て、ドアまで女をエスコートする。ゆっくりとドアを押し開け、どうぞと女に先を譲った。
外に出ると、春とはいえ夜はまだ空気がひんやりする。その冷気を含んだ風が尚樹の頬をかすめた。
女の背中に目をやり、ニット一枚では寒いのではないかと、声をかけた。
すると女は、「もう寒さは感じてないから大丈夫よ」と笑って見せた。
「ナオキさん、ありがとう。常連になれなくて本当に残念。でも・・ここに来られてよかった。じゃあ、逝くわね」
ふわりと髪を揺らし、手を振ってから尚樹に背を向ける女。その後ろ姿は霧の中に消えていくかのように、薄くなって、次第に透明になって、消えた。
店の中に戻って、彼女の座っていたスツールに手のひらを当てる。当然ぬくもりなど残っていない。
それと、グラスの中にも水滴はない。もちろん、酒は減っていない。だけど、一つだけ、無くなっているものがあった。
「あ・・花が無い。蘭の花が・・」
花だけは、彼女と共に消えていた。