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マスター・ナオキの怪店日記
第13章 冥途の土産
木々の青葉を見ているだけで清々しい気持ちになる。
そろそろ梅雨に入るというのに、いまだに長澤夫妻は姿を見せていない。
もうこの店に来る気はないのか。尚樹にとんでもない商売をまるで押し付けるようにしてしまったことを気に病んで店に来づらくなってしまったのだろうか。
ここまで4人の幽霊様が来店した。どの人も酒やバーに未練を残しているだけで、尚樹に怖い思いをさせる霊はいなかった。
見えてしまうという事にいまだに戸惑いはあるけれど、不思議なことにこの店以外の場所や自分の部屋では霊との遭遇は無い。正確に言えば、商店街の裏通りで声をかけてきた、最初の元バーテンダー以外には、店の外で自分の前に姿を見せた霊はいない。
信彦や照美は場所を問わずそういう出会いというか遭遇するような事を言っていたが、尚樹は彼らとは違うようだ。それについては内心かなりホッとしている。
それに・・
彼らとの短いひと時は、尚樹に生きていることのありがたさを感じさせてくれた。
生きているって、当たり前じゃないし、ラッキーなんだってことを、教えてくれた気がする・・
大丈夫、長澤夫妻はそのうちに必ず戻って来てくれる。尚樹はそれを信じて、今夜も酒とおしゃべりを楽しんでいる客に、精一杯のもてなしをしていた。