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雪エルフ魔女の氷結NG日記(極北系+官能短編集)
第2章 天使のような悪魔/深淵(アビス)エルフと初恋コレクター
3
「ねえ、キスしたことは?」

 川風の心地よい欄干にもたれながら探りを入れてみた。今現在のところ彼に良い相手がいるようには見えない。ひょっとして失恋でもしたか、それともずっと誰も好きになれないのか。
 あのときの「小さな男の子」は答えた。

「あるけどさ」

「ふうん」

 ソーニャは目を細くして、嫉妬の感情を胸中に甘噛みする。彼女に非難する権利はないのだけれども、それでもワガママな期待や欲望というのは如何ともしがたい。
 もしも彼が「あなたが忘れられなかった」と言ってくれたら、責任や罪を感じながらも、きっと嬉しかっただろうに。
 だから意地悪い気分になる。

「で、失恋?」

「そんなとこ。幼なじみだったけど、他に付き合ってる年上の人がいて結婚するかもとかで、僕とは「ちょっとだけ気があったから記念のつもり」なんだってさ」

 ざまあみろ。
 客観的には彼は悪くないのだろうけれども、それでも自己中心的な情動はどうにもならないらしい。ネラが言うように、ソーニャは嫉妬深くて独占欲が強いし本心では貪欲だった。「雪女」の愛を舐めんなよ!
 そして、「酷い女もいるものだ」と思いながら、自分自身の方がもっと上手という皮肉。普通の人間の(凡庸なエルフやドワーフもだろうが)限られた若さと寿命の中で、何人もの男を選ぶことは難しい。彼女にはそんな掟破りが出来てしまう。
 心の中のどこかで「やったぜ!」「チャンスかも」と考えてしまう。自分が意地汚く、狡猾で卑劣なのは百も承知だったから、ネラとは親近感と近親憎悪のアンビバレントな感情もあるのかもしれない。

「だったら、寝ちゃった? 結婚前に余所の男とお遊びなんて、そんなの背負い込む男だって可哀想」

 女だけでなくって、男にとっても結婚なんて一大事。ソーニャだって弁えていたから、何人も「恋人」を作りながら「妻」になろうとは思わなかった。それは男側の人生を歪めることになるし、一生をその男に捧げる覚悟の普通の女(若さも寿命も有限だから)の特権を奪うことになるから。
 彼は弁護するように言った。

「違うよ。ちょっとデートして、キスしただけ。仲が良かったから「記念のプレゼント」だって。でも彼としてるようなことまでは。でも胸とかは触らせてくれた」

 ソーニャは挑むような眼差しで睨んだ。

「ふうん? だったら、私にもキスくらいしとく?」
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