この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
透明なリーシュに結ばれて
第13章 desertion
「君は知ってるよね、私の妻のことは」
「……」
 口が裂けても知ってるなんて言えないし、それ以上に写真の忍の笑顔が僕の心をズタズタにした。いやそれどころじゃない。胃の中は空っぽで、目の前にある水やコーヒーにも口をつけていないのに、体の奥から(正確には胃の奥)妙なものを吐き出しそうな気分になっている。
「私が君に伝えたいことはそれだけだ。もう一度言おう。私は本気だ。君に少しでも知恵があるなら私の言うことに従うべきだ。まぁ、君の人生だ。私は君の人生なんか全く興味がないから、君の自由にしたまえ。本音を言えば君が一生暗闇の中でもがいていることを私は望む。その暗闇の中で君はひっそりと消えていくんだ。ざまぁみろだよ」
 陸男はそう言うと、冷めたコーヒーを飲み干して席を立ちあがった。そしてこのまま昭和レトロの喫茶店を出ていくのかと思ったら、陸男は僕の耳元でこう言ったのだ。
「妻から君のことをいくつか聞いているんだ。聞きたいだろ? 妻は君のことをこう言ってたよ。君は背が高くて……」
 陸男はそこで言葉を切って薄っすら笑った。
「もう一つ聞きたいかい? 私の妻が君のことを何と言っていたのか」
 陸男はまた笑った。
「君、あのときあれが早いんだって? ははは」
 店中に聞こえるくらいの笑い声を陸男は上げた。そして僕の前に置かれている水の入ったコップを取り上げて、水を僕の頭の上にかけた。
「これコーヒー代とクリーニング代だから」
 一万円札をテーブルの上に置いて陸男は喫茶店を出ていった。陸男は喫茶店を出るまでずっと笑っていた。
 言い返すことなんかできないし、反撃(ある意味暴力的な)もできない。頭にかけられた水がいくつかの筋を作って頭から流れ落ちた。
 その様子を見ていた店員がタオルを持って僕のところにやってきた。
「大丈夫ですか?」
 中年の男の声だった。僕に余裕があれば「ありがとう」と言ってそのタオルを受け取り頭や顔を拭くだろう。でも僕にはそんな余裕がなかった。胃の奥から込み上げてくる何だかすっぱそうな液体が喉まで上がってきていたのだ。僕は店内を見回してトイレを見つけると、胃の奥から込み上げてくるものを吐き出すためにそこに駆け込んだ。
 どうにか間に合った。洗面所で僕は体の中に溜まっていた何だか妙なものをすべて吐き出した。鏡を見る。鏡に映る僕は僕ではなく幽霊のようだった。
/115ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ