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透明なリーシュに結ばれて
第13章 desertion
 誰かに自分の人生について深く知ってもらおうなんて一度も考えたことがない。できることなら僕のことなんか誰にも知ってもらいたくないくらいだ。ただ、陸男の言葉は僕の止まりそうになった心臓を突き挿した。
「私が君に伝えたいことは一つだけ。二度と私の妻に会うなということだ」
「……」
「私はね、君のことを君と呼んでいる自分が悔しいんだよ。私にとって君なんてクズだ。そのへんに落ちているごみクズと一緒だよ。ごみだよごみ」
「……」
「あっ、それから私が伝えたことに君が返答しなくて構わないからね。私は君に妻に会うなと伝えに来ただけなんだ。でもね」
「……」
 陸男の冷たい目が更に険しくなった。
「これだけは君に忠告しておこうと思ってね。そうでないと何だか私が悪者になるみたいでさ。もちろん悪者は私ではなくて君だよ」
「……」
 声が出ない。でも、僕は目で陸男の言葉にうなずいている。陸男は一つ一つそれを確認している。
「君が私の忠告を守らなかった場合なんだけど、真っ先に君の職場と君が通っている大学に伺わせてもらうよ。君が私の妻と何をしたのか、君の職場の上司と君の大学の事務局に訴えるんだ。もちろん君のお宅にも伺う。君の御両親に会って君が私の妻と……通じているじゃ変か。やはりズバリ言った方がいいよね。私の妻と寝ていると言うことにするよ。寝ているってなんだか生々しいよね。当然弁護士にも相談するさ。慰謝料なんてたかが知れているが、君には大きい額になるだろうし、それより君の未来はそこで終わるんじゃないかな。さっきも言ったよね。私は君の未来なんかには何の興味もない。だから君がどうなろうが私はどうでもいいんだ。それどころか君には一生苦しんでもらいたいよ。平和だった私の家庭を粉々に壊した君を私は許さない、絶対に許さない。私は君を憎んで憎んで憎みまくる」
「……」 
 平和だった陸男の家庭、つまり下田の家庭のことを僕は想像した。
 口をつけることなんてないと思ったが、陸男はコーヒーに手を伸ばして一口コーヒーを啜った。僕には陸男を真似ることはできない。
「君に見せたいものがある」
 陸男はそう言って胸のポケットから一枚の写真を出した。陸男はそれを僕の前に置いた。写真を見る。僕の心臓がもう一度止まった。胃の奥から込み上げてくるものを必死の思いで耐えた。
 陸男と下田、そして忍が写っていたのだ。
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