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海鳴り
第7章 満ち潮
「父ちゃーん、おかえりー」


千切れんばかりに手を振る武に気がついたのか、相沢は視線だけをこちらに向けた。

一段と歓声が高くなる。

守るように立つ直也を後ろに従え、揺るがない表情のその男は、両手を胸の前で握りしめて泣きそうになっている律子を認めると、ゆっくりと頷いた。



おかえりなさい

おかえりなさい…



ボォーーーー……



「おい、舵を取ってんのは平田のおっさんじゃねえか…」

「おぉ、カズさんに乗せてもらったんだな、ちくしょう…、粋な計らいだなぁ…」


次々と目の前を大漁旗が通り過ぎる。

命を掛けて働いてきた男達の帰還。

それぞれの家族が待つ港。

最後尾の船が突堤を過ぎても、律子は一人そこに佇んでいた。

家族総出で水揚げする様子や喜び合う人々を離れた場所から見つめ、律子は人の息吹を噛みしめていた。


この日を忘れない

どうやって忘れろと言うのだろう

忘れられない風景の中には、いつも和男さんがいる


律子は胸に迫る幸せと不安の両方を抱きしめながら、散らばっていく人々を見つめていた。

ふと見ると、興和丸の傍で武がおいでおいでと手招きをしているのが見える。

律子は頷いて歩き出した。




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