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海鳴り
第7章 満ち潮
「律子先生、僕の父ちゃんかっこいいでしょう?」


笑顔の武が自慢気に目を輝かせる。


「本当ね、武くんのお父さんは世界一の漁師だわ」

「あははは、やったーっ。ねぇ船もかっこいいでしょう?」

「素敵な名前よね」

「うんっ、興和丸…。じいちゃんの名前と父ちゃんの名前をくっつけたんだよ、ね、父ちゃん」


船に戻り網を片付けていた相沢が武を見た。


「武、後でばあちゃんに刺身を届けに行くぞ」

「はーい。そうだ、律子先生にもお返しするんだよね」

「そうだな」

「えっ」

「おいしい雑炊だったって父ちゃんが言ってた」

「あ、…そ、そう…」


律子はあの日を思い出し、恥ずかしくなって俯いた。


「あ、翼くんだ、翼くーん」


武が翼を見つけて駆けて行った。


「……家にいてくれ」

「えっ?」


走り去る武の背中を見ていた律子が振り返る。


「武を送ったら…、そっちに行くから」


低く小さな声が律子の胸に響いた。


「…あの…」

「待っていてくれ」


相沢は律子の迷いなど気に止めるそぶりもみせず、律子を真っ直ぐに見つめてくる。

律子は息が詰まり、その胸は熱く震えた。




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