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海鳴り
第8章 海風
「俺は海の藻屑でもかまわねえ…、漁師だからな」


寂しい横顔だった。


「………」


律子は相沢の手を貝殻にのせ、その上に自分の両手をのせた。


「ちゃんと戻って来てください」


相沢が律子を見て悲しい笑顔で頷いた。

胸が熱くなる。


「ちゃんと、待っている人がいるんです…武くんだって、町の人だって…」

「そうだな…」

「必ずですよ、絶対、絶対…ちゃんと…ちゃんと…ここに、戻って来…てくだ…」


律子の頬に流れる涙を相沢の右手が覆い、冷たくなった唇が律子の唇を塞いだ。


「あぁ戻ってくる…あんたがそう言うなら…」


律子は再び唇を塞がれ、優しく絡み付いてくる熱い舌を受け入れた。

冷たくなった頬や耳に相沢の口づけを受けながらも涙は溢れ、しまいには相沢の肩に顔を埋めて泣き出した。

相沢の過去が律子の心に追い討ちをかけていた。


「律子、俺はまだ生きてるぞ」


耳元で笑う相沢に、恩師を亡くした事への慰めの言葉もかけられず、律子は子供のように泣きじゃくった。


ずっとそばにいたい

そしたらちゃんと戻ってくる

私でなくてもいい

和男さんを待っていて…

一人にしないで





真理子さん…




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