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海鳴り
第10章 高波
何か言いたかった。
でも上手く言えなかった。


思い出を見続けるの?

寂しさをまた背負うの?


「そばにいたい、…大好き…ウクッ…大好き大好き……うぅっ…大好き…」


律子は泣きじゃくった。


「あぁ、もっと言ってくれ」

「大好き…愛してる、大好き…大好き…」

「俺も好きだ、俺も愛してる…律子…」


律子は大好きと訴えながら、その言葉がすぐに過去になってしまうようで怖かった。

それでも相沢の心をいつまでも満たしておきたくて何度も「好き」を繰り返した。


こんなに人を好きになる事はもうない。

こんな痛みはもういらない。

律子は温かい腕の中でそう思った。
忘れられない痛みを知った。




──────


眠りについた律子を背にして、相沢はベッドに腰掛け肩を震わせていた。

膝の上で拳を強く握りしめ、俯いたままじっとしていた。

暫くして立ち上がり、律子の方を見ずに呟いた。


「律子…、幸せになれ、ちゃんと結婚しろよ、子供を産め…」


それから部屋を出ようとして立ち止まった。


「……さよならだ…」


相沢はドアを静かに閉じて、夜明け間近の町に戻って行った。

静まり返っていた町に、海風が吹き始めた。




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