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海鳴り
第11章 引き潮
「律子先生、はいこれ」

ランドセルから取り出した音読カードを武が嬉しそうに差し出した。

律子は確認印を押しながら、朱肉を使わない印がズラリと並ぶようになったカードを見つめる。


「お母さんは武くんの音読をちゃんと聞いて下さるのね」

「うんっ、寝ながらの時もあるけど、上手って言ってくれるよ」

「嬉しい?」

「うんっ」

「よかったわね。はい、またがんばってね」


明るい笑顔で席に戻る武のカードには、月の終わりに付いていた大きな花丸はもう見られなくなった。


「これ僕のカード」
「これアタシのー」

「はいはい、順番順番」


教室の窓から見上げる空には梅雨の晴れ間の太陽が顔を覗かせていた。


今年は梅雨明けが早いと天気予報で言ってたな


律子はそろそろ通知表をつける用意をしなければと思いながら、にぎやかな教室に視線を戻した。


もうすぐこの子達ともお別れ……


気軽に過ごすつもりでやってきたこの町で改めて、教師を続けていこうという思いが強くなった。

子供達の成長に目を見張りながら、共に成長してきた気がする。

この町のお陰だった。
町の人達のお陰だった。







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