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海鳴り
第11章 引き潮
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「律子先生、じつは…」

「はい、なんでしょう」


律子が『アザミ』で飲んでいた時だった。

遅い時間に度々訪れるようになっていた律子に、亜紀が言いにくそうな顔をした。


「じつはその…、真理子ちゃんにここを手伝って貰う事になって…、あ、毎日じゃないんです、忙しい時だけ…」

「…そうですか」

「もちろん先生にお越し頂くのはありがたいんですよ」

「……気に掛けで頂いてありがとうございます」

「いえそんな…」


真理子と顔を合わせるつもりはなかった。


律子はその日以来、『アザミ』には行っていない。

ふと見たスーパーの狭い駐車場に、赤い軽自動車を見つけた時には買い物を止めて家に戻った。

授業参観や懇談会に一向に顔を出さない真理子にはほっとしていた。

真理子を見ると相沢を思い出すだろう。

いつも想ってはいても、真理子の姿を通して思い出すのはいやだった。

足があの家へと向かってしまいそうになる港への散歩も控え、海鳴りが響く日にはベッドで丸くなってやり過ごす。

切ない日々が続いても、子供達の力を借りて精一杯前を向いて笑って歩いた。

自分の為ではなく、相沢の為にそうしていた。




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