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海鳴り
第12章 それから
「お待たせしました」


向かい合って座る二人のテーブルにコーヒーが運ばれてきた。


「ありがとうございます」

「ありがとう恵ちゃん」

「お疲れさまです律子先生、…ごゆっくりどうぞ」


律子はいつも通りに微笑んで頷き、武にすすめながらコーヒーを一口飲んだ。

通りに面した窓際の席はいつしか律子の指定席になっていたが、今日はその席に座っていても武のせいで落ち着かない。

自分で誘っておきながら、何から尋ねていいのかわからなくなっていた。


「あの、きっと聞き辛いい話だと思うので僕の方からお話しします」


口火を切ったのは武だった。


「あ、ごめんなさい。
気を使わせてしまって…」

「いえ、もう父がいない事には慣れましたから…」


武はもう律子の知っている坊主頭ではなく、ぴょんぴょん跳ね回る無邪気な子供ではなくなっていた。

父親の死を乗り越え、わざわざ律子を捜しだし訪ねて来た教え子。

律子は貝殻を膝に乗せ、両手で包み込むようにして懐かしい感触を味わった。


「父が亡くなった7年前にはもう、僕も妹もあの町には住んでいなかったんです」


武が静かに語り始めた。



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