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第2章 過去へ──出会い

「…先生、どこ？…大丈夫？」


直也の伸ばした両手が律子の腕に触れ、すぐに強く掴まれた。


「だ、大丈夫です…あの手を……っ…」


律子は引き寄せられ、逃げる間もなく抱きしめられた。


「先生…」

「は、離してください！」


濡れたシャツの胸に密着した律子のブラウスに雨がしみてくる。


「直也さん！」

「ねぇ、俺の女になってくんない？」


耳元で囁く声に酒の匂いが混じり、律子は思わず顔を背けた。


「や…─、っ！…」


首筋に唇が押し当てられる。

直也は身をよじって離れようとする律子の躰を押し倒して覆い被さった。


「い、いやぁぁーーっ！」


何が起こったのかわからなかった。

突然雨音が強くなり、風が家の中を吹き抜けた。

光がちらちらと揺れてまた闇になり、律子の躰が軽くなった。


「直也！ おめぇ…」

「…お、親方…」

「ばか野郎！」


相沢は直也を外に引きずり出し、こぶしで顔面を殴った。


「おめぇ女いるんだろ！」

「すみませんっ…」

「情けねぇ事しやがって！」


外の怒鳴り声は聞き取れなかった。

律子は放心状態だった。

どこを向いているのかも理解できず、目を開けているのかも閉じているのかもわからなかった。

どちらも同じ暗闇だった。