この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
桜 ~あなたに見られたくて~
第9章 母 陽子
ピンポン、ピンポーン!!
インターホンのチャイムがけたたましく鳴る。
母だ…
私は憂鬱な気分でドアを開けた。
「陽菜、久しぶり、元気にしてた?」
大きなサングラスに大きなつばの帽子
おまけにしっかりとメイクをして
目鼻立ちが整った顔はどこの女優かと見間違う。
大きいのはサングラスや帽子だけでなく、
引きずってきたトランクまで大きい。
「お母さん!何よその荷物!」
そのトランクの大きさからして
それが一泊や二泊ではないと容易にわかる。
「あ~、これ?
しばらくご厄介になろうかと思ってね」
「しばらくって…どれぐらい泊まるつもりよ」
「まあまあ…立ち話もなんだし
中に入るわよ」
づかづかと遠慮なしに部屋に上がり込んできた。
グルリと部屋を見渡して
「ほんと、男っ気のない部屋ね」と言って
母はため息を付いた。
「てっきり男と
同棲でもしているのかと思ってたのに」
以前にメールで
光俊と付き合っていることをほのめかしたから
別れたことも知らずに
交際が順調だと思っているのだろう。
「付き合っている男に会わせて頂戴よ
母としてちゃんと挨拶しておきたいわ」
「えっと…彼とは別れたのよ…」
「あら、勿体ない!
早くいい人を見つけて嫁にいかないと
行き遅れるわよ」
「ほっといてよ、私はまだまだ結婚する気なんて
全然これっぽっちも考えていないわ」
まったく…いつになったら孫の顔を見れるのかしら
そんなことをぶつぶつ言いながら
母は荷ほどきを始めた。