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インセスト・タブー
第1章 ボーダーはいつ失われたか
中世ヨーロッパ、某国。ぽつぽつと家々に灯りが点り始めた頃、城下のある貴族の邸の周りを、どこからともなく流れ込んでくるどんよりとした重い空気が、ねっとりと取り巻いていた。
「…いったい、どこへ行ったのでしょうね」
赤子を抱きながら堅い椅子に腰かける女性が、不安げな面持ちでポツリと口を開く。身にまとった衣服から、高貴な女性であることがわかる。
対し、テーブルを挟んだ向かいのソファーに深く座る夫が、短く唸った。その身なりや堂々たる態度から察するに、この邸の主人に違いなかった。
「あの子ももう、物事の分別も弁えている歳だ。自分のしていることがいかに我が儘なことかわかっているはずだ。きっとじきに戻るだろう、そう心配することはない」
もう何日も姿の見えない娘を案じる妻に、夫はなだめるように言った。
だが、そんな夫の言葉でも、妻の表情を明るくすることはできなかった。
「…いったい、どこへ行ったのでしょうね」
赤子を抱きながら堅い椅子に腰かける女性が、不安げな面持ちでポツリと口を開く。身にまとった衣服から、高貴な女性であることがわかる。
対し、テーブルを挟んだ向かいのソファーに深く座る夫が、短く唸った。その身なりや堂々たる態度から察するに、この邸の主人に違いなかった。
「あの子ももう、物事の分別も弁えている歳だ。自分のしていることがいかに我が儘なことかわかっているはずだ。きっとじきに戻るだろう、そう心配することはない」
もう何日も姿の見えない娘を案じる妻に、夫はなだめるように言った。
だが、そんな夫の言葉でも、妻の表情を明るくすることはできなかった。