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インセスト・タブー
第1章 ボーダーはいつ失われたか
「ええ、エリザーベトはもう分別のわかる歳。でもだからこそ、父の出世の掛かった大切なこの時期に、家出などするとは到底思えないのです」
妻であり母である彼女は、強く言った。

邸の主人は、ジョセフ・ヴァーサと名乗り、かつての王家、ピャスト家の流れを酌むと自称しているが、確たる証はない。ピャスト家の末期は複雑だったため、確かめるすべがないのもやむを得ないことだが、そのことについて周りは半信半疑だった。

エリザーベトは彼の、もうすぐ16歳になる娘だ。彼女が14の時、ある高貴な身分の男性との婚約を父に告げられていた。彼女は初め戸惑ったようだが、やがて素直に受け入れたように見えた。

だが、いざ輿入れの日の直前になると、彼女は突如姿を消したのだ。約束の日までに戻らなければ、相手の家にも迷惑をかける。ひいては、父であるジョセフの信用にも関わる。

母、マリアは、それを心配していた。

「しばらくそっとしておいて、今後も連絡をよこさなければ探させよう」
ジョセフが立ち上がりそう言うと、マリアはやっと少しだけ、安堵の色を示した。

「ありがとうございます」

不安を押し殺したマリアの声を背中で聞き、ジョセフは階段を降りていく。
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