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インセスト・タブー
第1章 ボーダーはいつ失われたか
「汚らわしいだけだわ、男なんて」
ベッドに寝転び憎々しげに吐き捨てる彼女は、成人して、予定の日から数ヶ月遅れてだが結婚も果たした、エリザーベトだった。

ここは輿入れ先の邸の、一室だ。

「もちろん彼と、彼の血を引くあなたを除いて、ね」
エリザーベトは壁に飾られた絵を見、続いて傍らの少年に微笑みかけた。

まだあどけなさの残るその少年は、にこりともせず、ただ無垢な目をエリザーベトに向ける。彼女と同じ青い瞳だ。

「母さ」

「エリザーベト」
声変わり前の声を最後まで聞くことなく、微笑を浮かべたままエリザーベトは訂正する。

「…エリザーベト。さっきからアリツィアが見えないようだけど?」

アリツィアとはエリザーベトの身の回りの世話をする女性で、何かあればすぐ呼べるよう、常に姿の見えるところに控えているように命じられている。今もそのはずだが、近くにいないのだ。

「人払いさせたの」
エリザーベトは静かに答えた。先ほどから変わらず笑みをたたえているが、少年にどことなく恐怖を与えていた。

「さ、おいで。エオレ」
彼女は少年を引き寄せた。
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