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インセスト・タブー
第8章 心のすぐ横を通りすぎていく
邸の自室にいた。アデム殿下には手当てを施し、あたしの質素なベッドをお貸ししている。そこらの宿の寝床よりかは幾分かマシだろう。

すやすやと寝息を立てる殿下の顔を眺める。中性的な顔立ちで、正直、男子と言われても女子と言われても、違和感はなかった。

…さぞ、お辛かったことだろう。長年性を偽り続けるというのは難しい。一人で隠し通すというのはほぼ不可能だろう。

したがって、これは殿下お一人の意思とは思えない。もしかすると王家全体での決定で、殿下ご自身の心には反したものなのかもしれない。

ふと二年前のことを思い出す。殿下の顔を曇らせていたのは、これだったのだろうか。「空回りばかりだ」という言葉は、生きたいように生きられず、それでいて周りに望まれたようにも生きられない、殿下の悲鳴だったのか…。

一方で、自らを顧みる。自分の意思で女性の格好をしているあたしは、まだ幸せなのかもしれない。本来の性別を隠しているわけでもないし。

女性なのに男性として育てられた殿下と、男性なのに女性のように生きるあたし。なんとも皮肉な廻り合わせだ、と思った。
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