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インセスト・タブー
第8章 心のすぐ横を通りすぎていく
夜が明けた。あたしはその晩は部屋を出て、廊下で仮眠を取った。中へ戻ると、殿下はまだお休み中だった。

…さて、これからどうしようかしら。

この邸には、エリザーベトの指示で男性は出入りしておらず、使用人は全員女性。最低限の人数しかいないし、その顔ぶれはあたしの知る限りほとんど変わっておらず、全員の顔と名前を把握できる程度だった。

そうやって幼少からともに過ごしてきた使用人たちには、あたしも心を許せている。ある程度信頼もしている彼女たちに、殿下のご事情を話してお身体に関する全般を任せるべきか悩んでいた。


と、殿下が目を覚まされる。

「…おはようございます、殿下」

「エオレ…おはよう」
殿下は一時視線をさ迷わせた後、あたしの姿を認めて、ああ、というお顔をなさった。そしてご自身の存命を確かめるように、包帯の巻かれた傷にお手を当てられる。

「そなたが…手当てしてくれたのか?」
アデム殿下は冷静だった。

「…はい」

女性に手当てをさせるか、国家機密に相当するだろう殿下のお身体の秘密を守るか悩んだ。だが殿下の傷の深さは一刻を争うほどのものに思われ、そんな時間はないと、とにかく応急措置はあたし自身で行ったのだ。
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