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俺と彼女の理不尽な幽霊譚
第1章 女子高生と俺
大学二年生の、春。
俺が彼女と出会ったのは、まだ桜どころか梅の花さえ咲いていない残寒厳しい二月の事だった。
自宅から自転車で五分の距離にある、住宅街の外れに建ったコンビニ。そこが俺のバイト先だ。駅からは遠いものの、近くに高校があったり、小さな工場が点在していた為時間帯によってはそこそこ利用客数の多い店だった。
当時お気楽暇人大学生の俺のシフトは、平日は夕方から深夜にかけて、土日は深夜から朝まで。夕方からのシフトはともかく、深夜シフトはその暇さと、眠気には辟易するものがあった。が、二か月もすればそれなりに慣れ、それらと戦う術をようやく身に付け始めていた。
そんな頃の話。
ある日の夕方の事だ。
ガラガラの店内を見回してから、俺は寝不足からくる鈍い頭痛と戦いつつ欠伸を噛み殺して中身の少なくなったおでんのタネを仕込んでいた。学校帰りの学生や仕事帰りの工員達が、暖かいおでんを目当てに夕方から殺到する事が多い。それまでに味を染み込ませなければならない。
トングを手に、汁を吸い難い素材から順に四角い鍋へと具材を突っ込んでいく。中々上手く汁の中へと沈んでくれない大根と格闘していた俺の耳に、こん。と小気味良い音が届いた。レジカウンターに商品が置かれた音だ。
(あークソ、このタイミングの悪い時に)
せめて大根詰めるまで待ってろよ。
「…らっしゃいませー」
心の中の毒づく声は顔に出さず、平坦な口調でマニュアル通りの投げ遣りな接客用語を口にして顔を上げる。そして、レジの前に立った空気の読めない客を見た。
正直に言おう。
物凄く、好みだった。
背中の中頃まで伸ばした、染色とは無縁な癖の無い真っ直ぐな黒髪。あまり陽に当たらないのだろう、白い肌と長い睫毛に縁取られたぱっちりとした二重の目。
今時のチャラチャラした感の無い、どちらかと言えば古風な、日本人形のような容姿の少女。褐色のダッフルコートの下からちらりと見える制服には見覚えがある。特徴的な赤と紺を基調にしたチェックのスカートは、この店の近くの有名な私立高校のものだ。
慌てて汚れた手を洗って、レジにつく。JANコードを拾うべく見下ろしたカウンターの上には、商品が二つ。思わず二度見した。
食卓用食塩の小ビンと、ワンカップ(清酒)。
物凄い違和感だ。