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俺と彼女の理不尽な幽霊譚
第1章 女子高生と俺

特別な事は何も無い。むしろここ数日続いていた夢見の悪さも無く、ぐっすりと熟睡出来たくらいだ。そのおかげかダルかった身体が妙に今朝は軽く、頭もすっきりしている。
意味深な質問を受ける云われは無い。

律儀にも俺の脳は昨夜の俺の行動を振り返り、異常を見つけられず質問の意図も理解出来ないままフリーズする。
何も答えないままの俺の前で、彼女もまた無表情なまま俺を見上げる。それからカウンターに隠れた俺の足元へ視線を落とすと、しばし大きな目を細めて何かをじっと見つめる素振りを見せる。

何だ。一体何なんだ。今度は何を俺にかける気なんだ。


「……ああ…」

「………?」


動揺する俺を尻目に、何やらぽつりと呟いてほっとしたように吐息を漏らし。
そして突然、ふっと、微笑んだ。


まるで、花が綻ぶように。


「もう、居ないな。……良かった」

「!!」


言葉の意味を問う思考なんて軽く吹き飛ぶ威力の、渾身の笑顔。安堵とか、慈愛とか、なんかもう色々な感情の混じったようなその表情に固まった俺を尻目に、彼女は再び無表情に戻るとくるりと踵を返す。そしてそのまま店の出口へと向かう。


「ちょ……ま、待ってって!」


ようやく金縛りが解けた俺は、慌ててその背中に声をかける。どうしてなのかは俺が知りたい。さっきまで関わり合いになりたくない対象でしかなかった筈なのに。けれど、身体は感情を飛び越えて彼女の華奢な肩を掴んでいた。


「……何用だ」

「あ、いや……その…」


良かった。肩に触れた瞬間俺の理性がしまった、と警報を鳴らしたが、どうやら叫ばれたり、変質者呼ばわりはされなさそうだ。足を止めて顔だけ振り返った彼女の、その年頃の少女らしからぬ古風な言葉に一瞬躊躇う。しかし興味が躊躇いに勝った。頭に浮かんだ言葉を、俺はそのまま口にする。


「あと三十分で、休憩入るから。だからその…少し、待ってて」


この時彼女を呼び止めた自分を、その後の俺が一生悔む事になるとも知らずに。







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