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俺と彼女の理不尽な幽霊譚
第1章 女子高生と俺
温度差のある二つの視線を悠々と受け止め、ヤツは昨日と同じくダッフルコート姿のままこちらに近づいて来る。つい昨日、ここで人の顔面に酒を浴びせかけた人間とは思えない程落ち着いた様子だ。
「なあおい、もしかしてお前の言ってた美人ちゃんってこの子?!」
「うざい、騒ぐな、死ね。だったらどうした」
関わりたくない、というオーラ全開の俺とニヤニヤ笑いを全く隠そうともしない大久保に怯みもせず、レジカウンターの前に立つ。外が寒かったのだろう、白い肌の露出した頬と鼻頭だけが赤くなっている。
ああ……あんな事が無ければ本当に好みなのに。
「…………」
「…………」
「…………」
無遠慮に向けられる視線と、それを無視する俺、更にその両方をニヤニヤしながら面白そうに眺める大久保。何なんだこの構図、ここから超逃げたい。今すぐ。無言の張り詰めた空気を破ったのは、大久保の携帯から流れた大音量の着うただった。
「おっとヤベ…はーい、大久保っす。あ、今駐車場で草取りしてる所で…はい、もうすぐ終わるんで、すぐ戻りまーす」
嘘をつけ、絶賛サボリ中じゃねぇか。
俺の冷たい視線も何のその、平然とバイト先の人間と思しき相手に話を合わせる大久保がちらりとこちらを見てニヤリと笑う。正確には、俺と俺の前に立つ奴を見て、だ。
「はい、はい…じゃあ。…と言う事で、橘」
「ああ?」
「そろそろ俺行くわ」
「は?何言って、ちょ、おおく…」
「先パイに呼ばれてっからさ。後はまあ、頑張れや」
美人ちゃんと仲良くな、報告楽しみにしてっから。
そう爽やかに携帯を持った片手を上げてひらひらさせ、大久保は去って行く。後に残されたのは俺と、変人女子高生。だから何なんだこのフラグは。俺に一体どうしろと。
「昨夜は、どうだった」
「……は?」
唐突な質問に、身構えていた俺の声が間の抜けたものになる。
どう、とはどういう意味だ。昨夜?別にいつもと変わりなどなかった。バイトを終えて一人暮らしをしている中古のボロアパートに帰り、夜食用に持って帰った賞味期限ギリのコンビニ弁当を食って、寝た。ただそれだけ。