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抜いてください
第1章 抜いてください
「抜いてくださいっ」
 と、おれは、急にそう叫ばれたものだから驚いて、高いそのおんなの声にかぶせた。
「わざとじゃないんです」
「わざととか、わざとじゃないとか、どうでもいいんです。とにかく早く抜いてください」
「は、はい」と、おれは力なくそう返事をしたはいいものの、どうやって抜けばいいものか困ってしまう。どうやってそこに挿れたかわからないから、どうやって抜けばいいのかわからないのだ。
「どうしたんですか?」と、こんどはおんなが力なく背後に立つおれにたずねた。「まさか抜けないとか?」
「まさかのまさかだ」と、おれは言う。「どうやって抜けばいいのかわからない」
「どうやって抜けばわからない」おんながくり返す。「どうやって抜けばわからない」
「そう」おれは言う。「どうやって抜けばいいのかわからない」
 おんなは、おれがぶつかった繁華街ではなくそこは裏路地であるが、おれに言う。「抜くだけです。抜けばいいじゃないですかっ」半分キレていた。いや。だいぶキレている。
「だから」おれはちょっと腹が立った。「それができないんだ。抜こうにもびくともしない」
 おんなが腰をふった。
「やめろっ」おれは驚いて叱った。「出る。出るからっ」
「出るなら」とおんなは言って、また腰をふる。
「そういう意味じゃないっ」おれはまた叱った。
「どういう意味ですか?」とおんなはきかず、悟ったのか、腰をふるのをやめた。
 おれは困ってしまう。むろんだがおれが悪い。歩きスマホのせいだ。歩きスマホのせいで前方不注意だった。前方不注意だったから、おんなとぶつかったのだ。たぶんその衝撃で、おれのペニスは――たまたまスマホでエロ動画を視聴してたのも悪いが、しかも歩きスマホで――おんなのあそこにすっぽり挿入されてしまったのだ。
 そこで言うだろう。
 この三文エロ小説をよむ賢明な読者の方々は、おれに言うだろう。
 抜けばいいだろ?
 早く抜けよ、ばかと。
 このおんなのようにきっとそう言うにちがいない。
 だがね、抜けないんだよ。いくら腰をひいてペニスを引っ張っても抜けない。とれそうなくらいなんだ。とれそうで痛いくらいなんだ。おそらくこの痛みはあなたにはわからない。とにかく痛くて痛くて仕方ないのだよ。あなたにはわからんだろうが。
 とにかくおんなだ。
 おんなのためにおれはおれのペニスを抜かないといけない。
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