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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~
第5章 二つめの恋花 恋紫陽花 其の壱
 が、生来面倒くさがりの兵助は、この大切な薬を呑むのを忘れるのはしょっ中である。
狩納玄庵は若い頃は長崎で最新の和蘭医術を習得したという外科医で、もう白髪の老人だ。一人息子は何でも加賀藩の殿さまお抱えの御殿医だという。しかし、玄庵の方は至って飄々とした人柄で、貧乏人からは金も取らないし、夜中でもいつでも病人がいれば、どこにでも飛んでいくという無欲で、一風変わった医者だ。
 恐らく―兵助の食が細いのも痩せているのも、その病が無関係ではないのだろうと思う。
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