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第8章 三つめの恋花　桜いかだ　其の壱

　その姿が今も弥助の瞼に灼きついている。
―どうして、労りの言葉一つかけてやらなかったのか。
　今であれば、職人としての弥助の名も少しは知られるようになり、定期的に日本橋の小間物問屋に品を納める他にも、名指しで弥助に簪を作って欲しいという客も増えた。生活に幾ばくかの余裕も出てきた今なら、お静に紅の一つどころか、晴れ着の一つくらいは買ってやれるものを。