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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~
第10章 桜いかだ 其の参
 水面に映り込んだ月を掠め、落椿(おちつばき)は川の面をそっと舐めるように流れてゆく。花は直に流されて、暗闇の中に吸い込まれるようにして姿を消した。川の流れに逆らう術(すべ)も知らず身を任すその姿は、あたかも人の宿命(さだめ)にも似ている。
 弥助は、花が見えなくなってもなお、しばらくの間、橋の上に佇んで夜風に吹かれていた。橋を渡れば、おれんの店は眼と鼻の先だ。
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