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こころから
第28章 直人14
 意識の隅っこに久美子さんの声が引っ掛かって我に返った。
大きな声ではなかったが、久美子さんの声は聞き逃さない。
オフィスの出口を見ると、ちょうど久美子さんが出て行くところだった。
魅惑的な後ろ姿。
形のいいお尻を見ながら、
あの夜の、裸の久美子さんのお尻を思い出す。
このまま、一夜限りで終わってしまうのは嫌だ。
怖気づいて何も行動しなければ、何も起こらない。

 誰も見ていないが、仕事が一段落したふうを装って伸びをした。
肩を上下させ首をまわす。
そして不自然にならないように気をつけながら席を立つ。

「トイレ行ってきまーす」

 誰も聞いていないと思いながら言い、
案の定、返事はおろか、誰も顔すらあげなかった。
早足にならないように意識しながら、ゆっくりとオフィスを出る。
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