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こころから
第28章 直人14
 呼びかけてみようかと思っていると、
棚の死角から書類を抱えた久美子さんが出てきた。
久美子さんは一瞬驚いた顔を見せ、
でもすぐに無表情に戻って目を逸らせてしまう。
思わぬところで思わぬひとと出会って、
困惑しているひとそのものだった。

「坂井くん、も、何か探しもの?」

 ぼくへの呼び掛けに、ほんのわずかに、
口当たりの悪さのようなものが感じられた。
ぼくが牧原部長と呼ぶときの違和感と同質のもの。

 もう躊躇わなかった。
ぼくは久美子さんに近づき、久美子さんの両肩にそっと手を置いた。
彼女はじっと動かず、ただ表情だけは固かった。
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