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こころから
第53章 久美子27
 正孝は呆れているのだろう、連絡もしてこない。
会社を自主退社し、五十五歳になった私は、
ほんとうにもう何もないただのおばさんだ。
おばさんだということを、否定してくれるひとはもういない。

 まだ私は、夫の庇護のもとにいる。

 ひとりにすると自殺するでしょう?

 夫はそう言った。
退院してからこっち、夫はずっと家にいるので、
会社を休んでいるか、仕事を家に持ち込んでいるのだと思う。
朝と昼と夜と、それの間にも二回ずつ。
そっと部屋を覗きにくる。
静かにドアを開け、静かにドアを閉めて去っていく。
何も言わない夫に申し訳なくて、顔もまともに見れない。

 あんたがいるならもう家に帰らない、と美香が言ったので、
今は夫とふたり暮らしになっている。
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