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こころから
第8章 直人4
牧原部長の髪が一本一本くっきりと見えていたので、
少し近寄り過ぎていたかもしれない。
駅が近づいてきてブレーキがかかったのを感じたとき、
電車が一瞬ぐらりと揺れた。
牧原部長がよろめいて、ぼくはほとんど無意識にその方向へ体を動かしていた。
牧原部長の肩がぼくにぶつかってくる。
一瞬、彼女の匂いを強く感じた。
フローラルの、清潔で上品な甘い香り。
「すみません」
「なんで坂井くんが謝るのよ。足踏んじゃったね、ごめん」
ぼくの胸にぶつかってきた牧原部長の感触に意識を奪われていて、
言われるまで足を踏まれたことに気づいていなかった。
ぶつかったのは近寄り過ぎのぼくの責任だが、
せめてちらりとでもこっちを向いて欲しかった。
彼女にしてみれば、見る価値もないということなのか。
牧原部長は外を見続けている。
さっきよりほんの少し、首筋に朱が差して見えるのは、
きっとぼくに都合のいいように見えているだけだろう。
少し近寄り過ぎていたかもしれない。
駅が近づいてきてブレーキがかかったのを感じたとき、
電車が一瞬ぐらりと揺れた。
牧原部長がよろめいて、ぼくはほとんど無意識にその方向へ体を動かしていた。
牧原部長の肩がぼくにぶつかってくる。
一瞬、彼女の匂いを強く感じた。
フローラルの、清潔で上品な甘い香り。
「すみません」
「なんで坂井くんが謝るのよ。足踏んじゃったね、ごめん」
ぼくの胸にぶつかってきた牧原部長の感触に意識を奪われていて、
言われるまで足を踏まれたことに気づいていなかった。
ぶつかったのは近寄り過ぎのぼくの責任だが、
せめてちらりとでもこっちを向いて欲しかった。
彼女にしてみれば、見る価値もないということなのか。
牧原部長は外を見続けている。
さっきよりほんの少し、首筋に朱が差して見えるのは、
きっとぼくに都合のいいように見えているだけだろう。