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こころから
第9章 久美子4
距離が近いゆえに事故も起こる。
例えば電車が強めのブレーキをかけたとき。
例えば路地から急に自転車が飛び出してきたとき。
例えば私は曲がるつもりなのに彼は道を知らず、
真っ直ぐ歩こうとしているとき、とか。
あっと思ったときにはもう踏ん張ることも、避けることもできなくて、
でもよろけるのは私だけで、坂井くんはいつもがっしりとしていた。
坂井くんとぶつかると、かすかに彼の匂いがした。
体臭というより、彼の部屋の匂いだろうか。
いい匂いではないけど、決して不快な臭いではない。
私はすっかりと、その匂いを覚えてしまっている。
いつの頃からか、彼と触れ合うとどきどきするようになった。
彼に近い側の半身の神経が、いつも研ぎ澄まされてしまうのを、
もう認めないわけにはいかなくなっている。
奇妙だ、奇妙だ。
自分がもう五十を過ぎたおばさんだということを、
うっかり忘れてしまいそうなくらい奇妙なことが、
私の中で起こり始めていた。
例えば電車が強めのブレーキをかけたとき。
例えば路地から急に自転車が飛び出してきたとき。
例えば私は曲がるつもりなのに彼は道を知らず、
真っ直ぐ歩こうとしているとき、とか。
あっと思ったときにはもう踏ん張ることも、避けることもできなくて、
でもよろけるのは私だけで、坂井くんはいつもがっしりとしていた。
坂井くんとぶつかると、かすかに彼の匂いがした。
体臭というより、彼の部屋の匂いだろうか。
いい匂いではないけど、決して不快な臭いではない。
私はすっかりと、その匂いを覚えてしまっている。
いつの頃からか、彼と触れ合うとどきどきするようになった。
彼に近い側の半身の神経が、いつも研ぎ澄まされてしまうのを、
もう認めないわけにはいかなくなっている。
奇妙だ、奇妙だ。
自分がもう五十を過ぎたおばさんだということを、
うっかり忘れてしまいそうなくらい奇妙なことが、
私の中で起こり始めていた。