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こころから
第16章 直人8
出張に向かう駅のホームで、牧原部長と待ち合わせをしている。
今のところ部署変更の通知はない。
担当の変更もないようだ。
まだ首の皮一枚でつながっているらしい。
今回の契約はすでに大詰めで、何事もなければ日帰りで済むはずだ。
ところが、牧原部長の様子が朝からおかしかった。
電車内、ノートパソコンで最後の書類を作成しているのだが、
キーボードを打つ指にいつもの躍動感がなかった。
話しかけても上の空で、うっかりと降りる駅を乗り過ごしてしまった。
いつも牧原部長に任せておけば大丈夫なので、ぼくも油断していた。
遅刻ぎりぎりで、何とかアポの時間に間に合った。
そして商談のクロージングが見えてきた頃、
さっきまで牧原部長が作成していた書類に、
ミスがあることに気がついた。
牧原部長がミスするなど信じられなくて、
ぼくが思い違いをしているのかと思った。